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歴史をちゃんと理解するための経済学 3 幕末通貨交換比率問題

桜のつぼみがふくらんできました!
いよいよ花見シーズン到来です。
だけど、せっかくの風流さを求める古来の遊びなのに、あの「ブルーシート」の群れだけは許せませんよね~? (#゚Д゚)ゴルァ!!

幕末通貨問題を一区切りつけようというのが今回です。ホントは目一杯書くつもりでしたが…
では、行ってみましょー


日米和親条約後、安政三(1856)年にアメリカ合衆国の初代総領事としてタウンゼント・ハリスが下田に着任した。あまりにも日米修好通商条約(1858年締結)の内容が日本側からすると、関税自主権がない・治外法権を認めるなどの不平等条約であるために、今の教育ではハリスに対して相当うがった見方をされているように思う。

しかし、真相はそんな短絡的なものだろうか?次の「ハリス」(坂田精一著)の文を見てほしい。

 外国との紛争は出来るだけさけて、おんびんな回避策、すなわちぶらかし政策を採ろうというのが、当時の幕府の腹であった。
 そこで、ハリスを怒らせず、しかも下田に釘づけにしておくつもりで、幕府はハリスに「邪教(※ここではキリスト教のこと)」伝染これなきよう相心得」させた上で下田駐箚(ちゅうさつ)の正式許可をあたえたのであるが、しかし中央との直接交渉はあくまでも避けて、要求事項については出先機関である下田奉行をして応接にあたらせることにした。一時のがれの空返事で責任のある回答をさけさせ、あくまでも遷延策をとって、ハリスが手を虚しく帰国するようになることを期待したのである。
 ハリスは奉行たちの不正直と不誠実をなじって、「日本の役人は地上における最大の嘘つき」であると罵った。



 つまり、アメリカの武力は恐ろしいことが分かって、開国は嫌々ながらしたものの、日本の一部に外国人が上陸して物品補給の権利を認めただけで、それ以上のことは先送りにして、中央政府との直接交渉に関しても「空返事」でごまかしたのである。

他国の正式な使節に対して、このような役人の責任回避の態度は赴任している使節にどのように映るであろうか。少なくともまともな国際感覚からすると当時の日本の対応の方がよほど不誠実であろう。この例を考えると、これまで通貨レートの問題がなかったということは、オランダは出島での交易に際して江戸幕府にへりくだった態度で接してくれていた、ということも間接的に理解できる。

なお、ハリスは一般の日本人のことをかなり高く評価していて、下田の住民の勤勉な姿を目にすることで、「喜望峰以東の最も優れた人民」であると言っているのである。また、「世界のあらゆる国で貧乏につきものになっている不潔なところが、少しも見られない」ということに起因しているというのだ。このことはいずれまた詳しく述べる機会があると思うので今回はおいておく。

他国と比較しても公平に日本の事を観察しているこのハリスが、日本側に最も強く要望したことがある。それが「通貨交換レート」 だ。

ところで、話は逸れるが戦後の日本は1949年–1971年8月 の期間、日本はブレトン・ウッズ体制の下で1ドル=360円の固定相場の時代となっていた。今は秒単位で変化する変動為替相場制であり、2017年3月30日現在で1ドルは111円である。固定相場制時代における360円というのは、単位の「円」が360°ということからテキトーに決められたという説もあったくらいだ。…もちろんこれは単なる噂話である。

それはさておき、この通貨レート設定の問題は幕府の存亡に大きく関わることになったのである。

前任の、マシュー・ペリーとの間で定められたのは、アメリカ銀貨1ドル(当時は紙幣でなくメキシコやスペイン製のコインが国際貿易で用いられていた通貨)に対して、一分銀一枚という暫定的なものであった。

しかしハリスはこのレートに不信感を抱いていたのである。なぜなら、1ドル銀貨は26.73gで銀の含有量も90%ほどであるのに対し、日本の一分銀は2.3匁(8.62g)である。つまり、一分銀と1ドル銀貨は約3倍も重さが違うのに価値が対等であるのはおかしいという理屈である。だから1ドル=三分のレートに修正すべきだ というのである。

ここで、「なるほど、確かにハリスの主張は正当だ」と考えた人。しかし、それこそが幕府を滅亡へと追いやった大きな要因なのだ。
次のシュミレーションを見てどう思うだろうか?

まず、日本では前回書いた「両替商(※シリーズ2を参照)」によって、一両(金の小判)=一分銀四枚に交換されていたことを記憶しておく。つまり、金:銀=1:4 であること。

これに対し、ハリスが主張したのは分量で比較すべきだ、ということであった。
つまり、1ドル銀貨(26.73g):一分銀(8.62g)=3:1だから、1ドル:一分銀=3:1である。そして、前回書いたように、「価格革命」によって西欧では銀の価値が下落し、金:銀=1:16という大変低い割合まで銀の価値が落ちていた。しかし、日本では金:銀=1:4 という銀の価値が高止まりのままなのだ。

こうするとおかしなことになってくる。

1:アメリカ人は1ドルを4枚持ってきて、等価値の一分銀12枚と交換する。
                     ↓
2:小判(金)1枚は一分銀4枚であった(先ほど記憶しておくと言った内容)。
                     ↓
3:アメリカ人は交換した一分銀12枚を、小判(金)3枚に交換できるから遠慮なく交換する。
                     ↓
交換レート
幕末の通貨問題 より>
4:彼らがこの交換を繰り返すことで、日本から大量の金が他国へ流れ、溶かされて地金として売却される。結果、日本は深刻な金不足に陥る。
                     ↓
5:そして、一両の価値が3分の1に下落した日本では「ハイパーインフレ」が発生し、物価高となる。つまり、逆に銀が大量に入って
くるという日本版「価格革命」 が発生したということになる。
                     ↓
6:「俸禄米」という米で固定給与を得て、それを換金して生業を建てていた武士の生活がインフレに追い付けなくなり困窮する。
                     ↓
7:幕府の防衛を担う武家の没落が、この経済原理によって始まる。


それでも、やはりハリスの主張が正しいと思う人もいるかもしれない。
では、次の事実はどう考えるだろうか。

現在の日本のお金の原価は次の表で確認できる。

お金の原価2017
<引用:お金はいくらで作っている?
ここで1万円札を見てほしい。原価は「22.2」円である。つまり、原価の450倍の価値が1枚の紙幣にはある。

ここで、先ほどのハリスの主張をもう一度振り返ってみよう。
1ドルは一分銀より3倍重いのであるから、3倍の価値がある。だから、日本の一分銀と1ドルを等価交換するのはおかしいので、1ドルは一分銀3枚にしよう 、というもの。

いかにこのハリスの主張が通らないかがわかるだろう。実はこれは、「兌換券(だかんけん)」の問題なのだ。兌換券というのは、紙が金貨と同じ価値があるとは到底思われていなかった戦前、日本政府によって、一円紙幣を一円分に相当する「金」と交換できますよ、という意味の文言が印刷されていたものである。すなわち政府からの「信用」がある、ということが当然前提となってはじめて「紙」に価値が発生するのである。今は金の地金と交換を保証しない「不換券」である。誰しもが「22円の原価」しかない紙に1万円の価値があると認めている時代であり、そこにわざわざ信用を謳わなくとも良い時代だからである。

ちなみに、世界初の紙幣はチャイナの北宋の時代に、金融業者が作った手形「交子」である。交子はその利便性から需要が増えることになる。そして、北宋は遼や西夏といった北方の民族との軍事費に当てるための財源として交子を必要とするようになった。北宋の皇帝:神宗は1072年に発行額を倍に増やし、以後次第に乱発気味になって、徽宗(きそう)の統治時代である1106年には2600万緡(みん)と当初の20倍以上にも増大してしまった。こうなると経済原理が発動し、「ハイパーインフレ」となってしまい、市場での価格が上がって市場が混乱した。

交子
交子 より>


ここで話を元に戻そう。

江戸幕府には唯一の交易国であったオランダからも、こうした通貨交換レート情報は入って来ていただろうが、他国の使節に対して不誠実な対応を取り続けたばかりに、ハリスによって日本政府はこうした不当な交換レート要求を飲まされたと言っても過言ではないのではないか。敬虔なキリスト教徒であるはずのハリス自身もこの歪んだシステムを利用して、両替を重ねることで私財を増やした、という日記をつけている。幕府は一連の外国勢力が起こした脅威を抱くべき事件に対して何の備えもしてこなかった。フェートン号事件、清におけるアヘン戦争。日本の当時の軍備ではまさに「太刀打ち」が出来ないこともオランダからの情報によって入って来ていたのに、全てスルーしていたのである。そうした日本の防備観念の希薄さが招いた事態であろう。

…理解できただろうか?江戸幕府が滅亡した背景に、確かに世の中で語られている幕末志士達の英雄譚が大きいと思われていたかもしれないが、実はじわじわと江戸幕府の活力を蝕み、滅亡への布石を盤石にしていったのは、間違いなくこの通貨交換レート問題なのである。

しかし、幕末においてこうした事態をいち早く把握し、他の藩に先んじて日本の危機を把握して西洋の価値を正しく理解し、近代化を見事に成功させた偉大な人物がいる。

それが佐賀鍋島藩、鍋島直正

鍋島直正
※肥前の妖怪 鍋島直正 1 参照
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■ 歴史をちゃんと理解するための経済学 1
■ 歴史をちゃんと理解するための経済学 2 幕末通貨交換比率問題 


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